デジタルアーカイブ
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大阪府では、関西を拠点に戦後の美術界で活躍した現代美術作家の作品をはじめ、1990年代に開催した「大阪トリエンナーレ」の受賞作品など、絵画や版画、彫刻、写真等約7,900点の美術作品「大阪府20世紀美術コレクション」を所蔵しています。ここでは、その所蔵作品を、作品名や作家名、キーワードから検索し閲覧いただけます。
コレクションガイド
大阪府は、国内外の20 世紀後半に生まれた美術作品を中心に、約7,900 点に及ぶさまざまな美術作品「大阪府20 世紀美術コレクション」を所蔵しており、大阪府立江之子島文化芸術創造センター(通称:enoco) において管理・活用しています。
このページでは、「大阪府20 世紀美術コレクション」の全体像を紹介します。
所蔵作品を大きく分類すると、絵画が全体の半数以上を占め、次に写真、版画の順になっており、彫刻、陶磁器、素描、デザイン、書などがあります。それらは主に1990 年から2001年まで開催していた「大阪トリエンナーレ」受賞作品を中心とした「世界の現代美術(大阪トリエンナーレコレクション他)」、「関西の現代作家コレクション」、「現代版画コレクション」、「現代写真コレクション」により構成されています。
1.世界の現代美術(大阪トリエンナーレコレクション他)
1990 年から2001年まで毎年、絵画・版画・彫刻の各ジャンルで、「大阪トリエンナーレ」という名称の「国際現代造形コンクール」を計10 回開催し、それらの受賞作品を中心に収集してきたコレクションです。
これらのコレクションの特色は、欧米が主導する現代美術の潮流にかたよらない、東欧・アジア・アフリカ・ラテンアメリカ・オーストラリア・日本など世界各国のさまざまな現代作家の作品が幅広く集められていることです。第1回~第10 回でグランプリを受賞した作家・作品を紹介します。
- 第1回(1990)絵画
- リチャード・ギルキー(アメリカ)《8月の草原》
- 第2回(1991)版画
- アンゲリカ・ミッデンドルフ(ドイツ)《Contrary》
- 第3回(1992)彫刻
- ミルチャ・ロマン(ルーマニア)《傷だらけの魂》
- 第4回(1993)絵画
- イマンツ・ティラース(オーストラリア)《肖像と夢》
- 第5回(1994)版画
- チャン・ミンジェ(中国)《走る群衆№2》
- 第6回(1995)彫刻
- タワッチャイ・パントサワット(タイ)《起立する卵》
- 第7回(1996)絵画
- 剣持和夫(日本)《TSUDA 1995C・H・D》
- 第8回(1997)版画
- バシル・コリン・フランク(イスラエル)《顎と白い犬》
- 第9回(1998)彫刻
- イ・ジェヒョ(韓国)《無題》
- 第10回(2001)総合(絵画)
- モラロキ&ハーテル(南アフリカ)《辺境聖地》
2.関西の現代作家コレクション
1990 年から1999 年までの間、関西を拠点に戦後日本の美術界で活躍した現代美術作家の展覧会を、国立国際美術館や大阪府立現代美術センター(enocoの前身施設。1980 年から2012 年まで設置)などで開催すると共に、出品作品をまとめて収集してきました。それらは、須田剋太・津高和一・三尾公三・森口宏一・清水九兵衛・齋藤眞成・上前智祐の作品です。
また、伊藤継郎・浅野竹二・金田辰弘・井原康雄・嶋本昭三・野村耕・木村嘉子・直原玉青・上島一司らの作品も、遺族や作家本人のご好意により寄贈を受け、収集してきました。
なお、金光松美は、日系2世として戦後のアメリカ画壇で活躍した作家で、必ずしも関西の現代作家とはいえませんが、青少年期を広島で暮らした後、ニューヨーク滞在時には、「具体美術協会」の吉原治良らと交流がありました。また、大阪府主催の展覧会を国立国際美術館と共催で開催した時に出品するなど、一連の大阪府の展覧会事業において収集したことなどから、このコレクションに含めています。
3.現代版画コレクション
大阪府立現代美術センターでは、「現代版画コンクール」の開催や、現代版画の収集をひとつの方針として、様々な活動をしてきました。これらはそうした活動によって集められてきた現代版画のコレクションです。
主として、浅野竹二・前田藤四郎・川西英・泉茂・吉原英雄・粟津潔・池田満寿夫・横尾忠則・宇佐美圭司・井田照一・一原有徳・加納光於・徳力富吉郎・木村光佑・木村秀樹・黒崎彰・服部三郎・李禹煥・久保晃・田中孝・西村正幸・松本旻などの作品があげられます。
4.現代写真コレクション
1990 年に大阪・鶴見緑地で「国際花と緑の博覧会」(花博)が開催されました。会場内の「花博写真美術館」では、「花と緑と自然」「EARTHSCAPE/ 美しい地球」というテーマで日本と海外の優れた写真の展覧会が開催されました。このときの展示作品が、当時の出展委員会からの寄贈を受け、大阪府のコレクションになっています。
国内作家は、岩宮武二、秋山庄太郎、三木淳、入江泰吉、今井高嶺、中村吉之助、杵島隆、白籏史朗、浅野喜市、高間新治、高田誠三、渡辺義雄、植田正治、マツシマススム、緑川洋一、高橋扶臣男、菅井日人、吉田昭二、棚橋紫水、山本健三、葛西宗誠、山村雅昭、水越武、関口哲也、林忠彦、川上緑桜、吉澤和子、栗林慧、立木義浩、吉田政行、前田真三、津田洋甫、藤田浩、木原和人、木下陽一、竹内敏信の計36 名で、一人8~10 点、計303 点からなるコレクションです。
海外作家では、ウジェーヌ・アッジェ(フランス)、アルフレッド・スティーグリッツ(アメリカ)、イモージン・カニンガム(アメリカ)、E.ウエストン(アメリカ)、ジャック=アンリ・ラルティーグ(アメリカ)、アンセル・アダムス(アメリカ)、A.C.ブレッソン(フランス)、ウィン・バロック(アメリカ)、ハリー・キャラハン(アメリカ)、ジョン・ファール(アメリカ)、エメット・ゴーウィン(アメリカ)、ジョン・ディボラ(アメリカ)、ベルナール・フォーコン(フランス)などの作品があります。
その他、戦後の大阪の写真界で活躍した、岩宮武二・津田洋甫・田中幸太郎らの写真もまとめて収集しています。
5.その他
1992年に、スペイン・セビリアの万国博覧会場内の日本政府館で開催された「サイエンスアート」展の出品作品や、田中一光によるポスター、ホルガー・マティスによる円筒形のポスターをはじめ、2000年12月に開催した「屏風に描く大阪ビジョン21」展で受賞した作品や、「花博いちょう館」に出品された陶磁器や書などの作品も多岐にわたって収集しています。
作家解説(関西の現代作家)について
「大阪府20 世紀美術コレクション」のうち、「2. 関西の現代作家コレクション」の大半は、戦後~1970 年代にかけて、関西(主として京阪神)を拠点に活躍した美術作家の作品です。1980 年以降に活躍した新しい世代の作家たちについては、「1. 世界の現代美術(大阪トリエンナーレコレクション他)」や、「3. 現代版画コレクション」に一部含まれています。
戦後から1970 年代にかけての関西の美術動向については、1994 年に、兵庫県立近代美術館が開催した『関西の美術1950s~1970s 創造者たちのメッセージ』展と、そのカタログが最もまとまっています。「大阪府20 世紀美術コレクション」の現代作家コレクションも、関西の戦後美術史1950s~1970s のさまざまな舞台に登場し、活躍し、それぞれの役割を果たしました。
関連する戦後関西の美術動向を年代順に追ってみましょう。大阪市立美術研究所が大阪市立美術館内に開設(1946)、行動美術協会の発足と同京都研究所の開設(1946)、同協会全関西展の開催(1947 ~)、パンリアル美術協会(1948 ~)(※1)、デモクラート美術協会(1951~)、ゲンビ(1952 ~ 57)(※2)、具体美術協会(1954 ~1970)(※3)、抽象作家集団テムポ(1962 ~1963)など、戦後の新しい美術研究所や美術団体の発足、前衛美術集団の活動などがあり、京都アン
デパンダン展、現代美術の動向展、朝日新人展なども重要な活躍の場となりました。さらに、多くの現代作家たちは、関西のみならず、東京(中央)や海外での発表をめざし、その舞台は、現代日本美術展、日本国際美術展、サンパウロ・ビエンナーレなどの国際展でありました。
浅野竹二は、戦前に京都の日本画や明治の浮世絵の流れを汲みつつも、戦後独自の版画世界を築き、伊藤継郎は赤松麟作や鍋井克之など、明治以来の大阪の洋画壇の流れを継承し、戦後関西の洋画を指導しました。須田剋太や津高和一は、50 年代のゲンビの活動に参加、さらに現代日本美術展、日本国際美術展、サンパウロ・ビエンナーレなど国際舞台に活動の場を広げました。行動美術協会に所属した関西の作家も多く、津高和一、斉藤眞成、森口宏一、井原康雄らがあげられます。金田辰弘は二紀会を舞台に活動しました。また、野村耕や木村嘉子はパンリアルの会員となり、上前智佑と嶋本昭三は具体美術協会の創立当初からのメンバーとして活躍しました。清水九兵衛は、抽象彫刻家として、箱根彫刻の森美術館大賞展、神戸須磨離宮公園現代彫刻展や宇部市野外彫刻展などを舞台に、野外モニュメント彫刻の作家として活躍し、三尾公三は、サンパウロ・ビエンナーレ、インド・トリエンナーレに出品、70 年代におけるあらたな具象絵画(※4)の展開に足跡を残しました。
こうした関西を拠点に活躍した作家とはまったく異なる道を歩んだ金光松美は、戦後アメリカ画壇(ニューヨークとロサンゼルス)で、アメリカに在住し、活躍した日系2世の現代作家ですが、一時期、吉原治良ひきいる具体のメンバーたちとの交流もありました。また、直原玉青と上島一司は、現代美術の動向とは一線を画し、戦後の日展を舞台に、南画および日本画の世界でそれぞれ活躍しました。
これらの作家と、関西の写真界で活躍した岩宮武二・田中幸太郎・津田洋甫らと、田中一光によるポスターのコレクションを、作家解説からご覧いただけるように掲載しました。
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【用語解説】
- ※1 パンリアル美術協会
- 1949年に日本画の革新をめざして京都に生まれた美術グループ。
- ※2 ゲンビ
- 1952年に大阪に生まれた美術研究会、現代美術懇談会の略称。絵画、彫刻以外に、工芸や書、いけばなも含まれていた。
- ※3 具体美術協会
- 1954年に吉原治良を中心に関西に生まれた前衛的な美術グループ。
- ※4 具象絵画
- 何が描かれているのかがわかる作品のことで、抽象画とは反対の絵画。